落とし物の横領について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
◇事件◇
A子さんは、大阪市北区にあるデパートの受付けをしています。
先日、お客さんからトイレに落ちていた財布が届けられました。
A子さんの勤務するデパートでは、受付係が受理した落とし物を、閉店時に保安室に持っていき、保安室で1週間保管して、最寄りの大阪府曽根崎警察署に届け出ています。
受付けで落とし物を受理する際は、拾得者に、所定の書類に記載してもらっています。
しかし財布を届けたお客さんは、急いでいるという理由で書類の記載を断られてしまいました。
A子さんが届けられた財布の中を確認すると20万円近くの現金が入っていたので、A子さんは誘惑に負けて財布を保安室に届けず、自宅に持ち帰りました。
~フィクションです~
◇遺失物横領罪◇
トイレに落ちていた財布は、その所有者がトイレ内に置き忘れていた物であるから、明らかに遺失物法上の遺失物に当たります。
このような遺失物を盗む行為は、刑法第254条における遺失物横領罪に当たります。
遺失物横領罪は、道に落ちている既に誰の占有にも属さない遺失物を領得した場合だけでなく、例えば、遺失物を拾得して自宅に持ち帰った後、不法領得の意思を生じて遺失物を個人的用途に費消したような、既に自己の占有下に入っている遺失物を横領した場合でも成立することがあります。
そうすると、A子さんも、拾得者から財布を受け取って、自己の占有下に入った後に、不法領得の意思を生じて自宅に持ち帰っているので、遺失物横領罪が成立するように思われます。
遺失物横領罪の法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」といくつかある横領の罪の中では最も軽いものです。
◇業務上横領罪◇
はたしてA子さんの行為は、遺失物横領罪に当たるのでしょうか?
一般的にA子さんのようなデパートの受付係は、お客さんから届けられた遺失物をマニュアルに則て処理することを業務の一つとされており、A子さんのデパートでも遺失物の取り扱いは決まっていました。
そのことを考えると、お客さんから届けられた財布をA子さんが保管しているのは、会社からの任務です。
この任務は当然、業務上横領罪の「業務」に当たるので、拾得者である客から預かって、保安室に届けるまでにA子さんの手元にある、遺失物の財布は、A子さんが業務上自己の占有する他人の物となります。
この事を考えると、A子さんの行為は、業務上横領罪に当たるでしょう。
業務上横領罪は、単純横領罪の特別罪として刑が加重されているので、その法定刑はいくつかある横領の罪の中で最も重い「10年以下の懲役」です。
◇業務上横領罪の弁護活動◇
法律的には、業務上横領罪の被害者は、会社となるので、A子さんの場合は、デパートが被害者となります。
しかし実質的に損害を被っているのは、財布の持ち主です。
そのため、A子さんのような業務上横領事件の場合、被害品の弁償や謝罪は、財布の持ち主に行うことになるでしょう。
そういった活動を行うことによって、その後の刑事罰を免れることができる可能性があります。