暴行罪と傷害罪を検証

暴行罪と傷害罪を検証

暴行罪と傷害罪について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。

~事例~

大阪市で性風俗店を経営するAさんは、自身のお店で勤務する女性従業員に頼まれて給料100万円を前貸ししました。
毎月の給料から天引きして返済してもらう約束でしたが、女性従業員はAさんから100万円を受け取った翌日から出勤しなくなり音信不通となりました。
その数か月後、この女性が他の性風俗店で働いていることを知ったAさんは、女性が働いている性風俗店に行って、返済の話し合いをしようとしました。
しかし、女性が開き直って返済を拒否したことから、Aさんは「風俗店で働けなくしてやる。」と言って、女性の身体を押さえつけて、バリカンで女性の髪の毛を切断して丸坊主にしたのです。
(この事例はフィクションです)

他人に暴行すれば暴行罪刑法第208条)で、その暴行によって被害者が傷害を負えば傷害罪刑法第204条)に抵触すると言われています。
つまり傷害の結果が発生しなければ、暴行罪が成立することはあっても、傷害罪は成立しないのです。
つまり、今回の事例では、女性の頭髪を切断し丸坊主にした行為が傷害の結果を生ぜしめた行為といえるかどうかによって、傷害罪が適用されるかどうかが判断されます。

~「傷害」とは~

「傷害」の意義については、学説上
①身体の完全性毀損説
②生理機能障害説
③折衷説(生理機能を傷害し又は身体の外形に重大な変化を生ぜしめたこととする説)
の3説が対立しています。

事例のように女性の髪の毛をバリカンで切断し丸坊主にする行為は、外形上の完全性を害する行為ですが、生理的機能までもを害する行為とはいえないでしょう。
その事を念頭にすれば①身体の完全性毀損説を採用すれば、傷害罪が成立するでしょうが、②生理機能障害説が採用されれば、暴行罪の成立にとどまります。
この点に関して、今回の事例と同様の事件の判例では、傷害罪は身体の生活機能の毀損、すなわち健康状態の不良変更を惹起することによって成立するもので、髪の毛や髭を切断することで直ちに健康状態の不良変更を来さないので、暴行罪が成立するにとどまるとしています。
しかし下級審判例では、今回の事例と同様に事件について
(1)人の身体の完全性を侵害する場合も傷害に当たる。
(2)頭髪は、人体の中枢をなる頭脳を外力から防護する生活機能を有している。
(3)女性の頭髪は、女性の社会生活上重要な要素を占めている女性の容姿にとって、まさに生命ともいうべきものとして古くから大切に扱われてきているものであって、女性の頭髪を切断する行為は傷害罪に当たる。
と③の折衷説を採用する判例もあります。(昭和38年東京地裁判例)

~結論~

実務上では、②生理機能障害説と③折衷説の何れかの説が採用されることになりますが、生理機能に重大な侵害があれば外部的完全性を損なわくとも傷害罪が適用されるべきであり、逆に、生理機能を全く侵害していない以上は重大な外形上の変形も傷害とする必要はないと解されます。
そして、人体の一部たる頭髪には、頭部を保護する機能があり、この生理的機能が頭髪の切断によって侵害されることになるとしても、その侵害の程度は、通常の一般人がこれを身体に受ける傷害として意識しているとはいい難いほど、ごく軽微なものです。
したがって、今回の事例の行為に対しては暴行罪が適用される可能性が非常に高いでしょう。

◇暴行罪の量刑と刑事弁護活動◇

~量刑~
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
暴行罪は、犯行形態や被害者感情によっては微罪処分の対象にもなる、軽微な犯罪の一つですが、今回の事例の場合、上記(3)にも記載したように、どの様な事件背景が存在するにせよ、女性の頭髪を切断するという行為は、女性の被害者感情を考慮すると非常に悪質なものといえるでしょう。
暴行罪は、初犯であれば略式罰金となるケースがほとんどですが、犯行の悪質性が重要視された場合は起訴される可能性もあるでしょう。

~刑事弁護活動~
暴行罪は、被害者と示談を締結することによって不起訴処分等の減軽が望めるため、刑事弁護活動は被害者との示談が主となります。
示談は、被害者に対して示談金を支払うこととよって締結できるケースがほとんどです。
そこでみなさんが気になるのが示談金の額でしょう。
一般的に示談金は、事件の内容や、事件の被害によって実際に生じた損害金や費用、事件が原因となって仕事を休んだ場合の日当等を考慮して算出しますが、最終的には被害者との合意によって示談金が決定します。
女性の髪の毛を切断した今回の事例では、女性の精神的なショック等を考慮すれば相当の金額に及ぶことが予想されます。


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