虚偽の犯罪申告
虚偽の犯罪申告が刑事事件になる場合について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
~事例~
大阪府枚方市に住む派遣社員Aさん(40歳)は、「空き巣に入られて、寝室の宝石箱に入れていた高級腕時計(500万円相当)が盗まれた」と110番通報しました。
大阪府枚方警察署の警察官が、Aさんの自宅に臨場し鑑識活動等の初動捜査が行われると同時に、Aさんは、住居侵入と窃盗の被害届を警察に提出しました。
しかし、被害は事実ではなく、生活費に困窮していたAさんが、保険金を騙し取ろうとして、虚偽の被害申告を警察にしたのでした。
後日、不審に気付いた警察官に追及を受けたAさんは、虚偽の被害申告を自白しました。
(この事例はフィクションです。)
今回は、Aさんの行為がどのような犯罪に抵触するのかを検討します。
◇業務妨害罪◇
刑法第233条~偽計業務妨害罪~
偽計を用いて人の業務を妨害すれば偽計業務妨害罪となり、偽計業務妨害罪で起訴されて有罪が確定すれば「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられます。
偽計とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤、不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いる事とされています。
簡単な表現で「人を騙す」といった行為も偽計に当たります。
つまり今回の事件で、虚偽の窃盗被害を警察に届け出る行為は、警察官を騙しているので、偽計業務妨害罪の「偽計」に該当すると言えます。
続いて「業務」について考えてみます。
一般的に業務妨害罪の「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業を意味し、営利の目的や経済的なものである必要はなく、精神的、文化的なものでもよいとされています。
ただ今回の事件の様な警察官の職務が、業務妨害罪の「業務」に当たるか否かについては諸説あります。
これは、警察官の職務は「公務」と位置付けられ、公務は公務執行妨害罪によって保護されている事から、業務妨害罪により保護される「業務」との関係が問題になるからです。
かつて「公務」は、一切業務妨害罪の対象にならないという説が有力でしたが、警察官の職務を業務妨害罪の対象にしている判例も存在するので、現段階では、警察官の職務、公務が業務妨害罪の「業務」に当たるか否かは、明確に定められていないと言えます。
ただ昨年、警察官の前に覚せい剤に似せた白い粉をわざと落とした男の行為に対して、偽計業務妨害罪が適用されました。この事件の裁判で、弁護人は「警察官の業務は強制力のある権力的公務であり、偽計業務妨害罪の対象外である」として無罪を主張していましたが、裁判官は「公務であっても偽計業務妨害罪の対象と解釈すべきだ」と指摘して有罪判決を言い渡しています。(平成30年10月31日付の福井新聞記事を参考)
◇軽犯罪法違反◇
軽犯罪法第一条第16項で、虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出ることを禁止しています。
実際に発生していない窃盗事件の被害を警察官に申告する行為は、まさにこれに当たります。
軽犯罪法違反の法定刑は「拘留又は科料」と非常に軽いものですが、前科は付いてしまうことになります。
◇詐欺罪◇
Aさんは保険金を騙し取る目的で虚偽の窃盗事件を警察に届け出ています。
詐欺罪の適用が気になるところですが、Aさんが保険会社に何らかのかたちで保険金を請求していたとすれば詐欺行為の着手が認められるので詐欺未遂罪となります。
また、その請求によって保険金がAさんに支払われていた場合には、詐欺罪となります。
逆に、虚偽の窃盗事件を警察に届け出ただけであれば、詐欺行為の着手がないので詐欺罪や詐欺未遂罪の適用を受けることはありません。
業務妨害罪が適用されるか否かの判断については、法律知識が豊富な刑事事件専門の弁護士からアドバイスを受ける事をお勧めします。
刑事事件を専門に扱っている弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、無料法律相談や、初回接見サービスのご予約をお電話で受け付けております。
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