◇事件◇
無職のAさんは、家の近所にあるコンビニまで自転車で行く道中に、よく大阪府西淀川警察署の警察官から職務質問をされます。
毎回、自転車の防犯登録番号から盗品自転車でないか調べられるのですが、何度も職務質問されることに腹を立てたAさんは、昨夜、パトカーに停止を求められた際に、持っていたペットボトルをパトカーに投げつけました。
パトカーのフロントガラスが割れてしまい、Aさんは、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されました。
(フィクションです)
◇公務執行妨害罪~刑法95条1項~◇
公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行・脅迫を加えた者は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
~ペットボトルをパトカーに投げつける行為は、公務執行妨害罪の「暴行」に当たるか~
刑法の規定の中には「暴行」という言葉がよくつかわれますが、その意味は各罪名によって異なりますから注意が必要です。刑法の「暴行」は次の4種類に分けられます。
=最広義の暴行=
有形力の行使すべてを含み、対象は人であっても物であってもよいとされています。
=広義の暴行=
人に対する有形力の行使をいいますが、直接暴行だけではなく、間接暴行も含むとされてます。
=狭義の暴行=
人の身体に対する有形力の行使をいいます。
=最狭義の暴行=
人の身体に対する有形力の行使で、人の反抗を抑圧するか、著しく困難にする程度のものとされています。
このうち、公務執行妨害罪の「暴行」は上記②に当たります。
直接暴行とは、人の身体に直接に有形力を加えることですが、間接暴行とは、物に対する有形力で、それにより間接的に一定の人に物理的・心理的に感応を与えるようなものを意味します。
すなわち、後者の場合、直接人の身体に暴行を加える必要はありません。Aさんの「パトカーにペットボトルを投げつけ、フロントガラスを割った」という行為も、この間接暴行に当たるでしょう。
~ペットボトルをパトカーに投げつけただけで、公務執行妨害の「公務の妨害」に当たるか~
上の暴行の程度ですが、当然、職務執行の妨害となる程度のものである必要がありますが、それによって現実に職務の執行が妨害されたことを必要とされません。
これは、公務執行妨害罪の目的が公務の円滑な執行を保護するためにあるからです。
パトカーは、警察官が様々な警察業務を遂行するに当たって必要不可欠なものです。
フロントガラスが割れたパトカーでは、その後の警察業務に従事することができませんので、警察官の業務を妨害したことになるでしょうから公務執行妨害罪が成立する可能性は極めて高いといえます。
業務の妨害が認められなかった場合は、器物損壊罪が成立するにとどまるでしょう。