◇事件◇
大阪市西成区に住むAさんは近所の居酒屋でアルバイトしています。
この居酒屋では、店長が仕入れてきた覚せい剤を、常連のお客さんに密売しており、Aさんも覚せい剤の密売を手伝っていました。
ある日、Aさんが一人でお店にいる時に、厚生労働省近畿麻薬取締局の捜査員が、捜索差押許可状を持って来て、店内を捜索されました。
そして、厨房に隠していた覚せい剤が見つかってAさんは、覚せい剤所持罪で現行犯逮捕されたのです。
時を同じくして店長も、覚せい剤の譲渡違反で逮捕されていたようです。
Aさんは、20日間の勾留後に、覚せい剤の営利目的所持で起訴されてしまいました。
(このお話はフィクションです。)
◇営利目的の覚せい剤所持事件◇
覚せい剤取締法で、覚せい剤の所持を禁止しています。
自分で使用する目的などの、非営利目的の単純な所持事件ですと、起訴されて有罪が確定すれば10年以下の懲役が科せられます。
特別な事情がない限りは、初犯だと執行猶予判決となる可能性が高く、刑務所に服役することは免れますが、再犯の場合は、実刑判決の可能性が高くなります。
密売等の営利の目的で覚せい剤を所持していたと認められた場合は、営利目的の覚せい剤所持罪となり、この罪で起訴されて有罪が確定すれば、1年以上の有期懲役が科せられることとなり、情状によっては300万円以下の罰金を併せて科せられます。
~営利の目的~
覚せい剤取締法では、大きく分けて所持、譲渡、譲受、使用、輸出入、製造を禁止しており、それぞれの違反形態は、非営利目的と営利目的とに分かれています。
そして営利目的には加重処罰規定を設けているのです。
このような加重処罰規定が設けられたのは、財産上の利得を目当てとして犯罪を行うことが道義的に厳しく非難に値するというだけでなく、一般にその行為が反復され、覚せい剤の濫用を助長・増進させ国民の保健衛生上の危害を増大させる危険性が高いからです。
営利の目的は、犯人が自ら財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合を意味します。
警察等の捜査当局は、押収した覚せい剤の量や、実際に覚せい剤を買った人物がいるかどうか(密売履歴)、覚せい剤を密売して得た財産等から営利目的を立証するのですが、単に覚せい剤を有償で譲り渡すことだけで営利目的と認められるわけではありません。
営利目的の覚せい剤所持罪は、非営利目的の単純な所持罪に比べて非常に重たい法定刑が定められています。
営利目的の覚せい剤所持事件で逮捕、起訴された場合は、初犯であっても刑務所に服役する可能性があるので、早期に薬物事件に強い弁護士を選任する事をお勧めします。
◇麻薬取締官◇
麻薬取締官は、警察官とは異なり、違法薬物の捜査がのみが許されてる、厚生労働省の職員のことで、巷では「麻薬Gメン」と呼ばれています。
麻薬取締官は、薬物捜査に限って捜査権が与えられており、拳銃や警棒等の武器の所持も法律で認められています。
麻薬取締官は、麻薬及び向精神薬取締法やあへん法、麻薬特例法で、警察捜査では許可されていない「おとり捜査」がある程度許されています。
そのため麻薬取締官は薬物に対する専門的な知識を有しており、麻薬取締官の多くは薬剤師の国家資格を有しています。
麻薬取締官の扱う薬物事件は、大規模な組織的な密売、密輸、栽培事件や、有名人、著名人が起こした事件が多く、最近では、大阪府内で大規模な大麻の密造事件が摘発されました。
麻薬取締官に逮捕された場合でも、基本的な捜査手続きは警察に逮捕された場合と同じですが、麻薬取締官が所属する厚生労働省の地方厚生局麻薬取締部にある留置場は、勾留中の被疑者を収容する事ができないので、拘置所で身体拘束を受ける場合がほとんどです。