東成区の放火事件
放火事件について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
~事件~
大阪市東成区に住むAさんは、数ヶ月前から、会社でのストレスを解消するために、近所のアパートに駐車しているオートバイや、ゴミ置き場に捨ててある段ボール箱に火をつける放火事件を繰り返していました。
そして先日、Aさんは、近所の敷地内にあった自転車に放火した直後に、警戒中の大阪府東成警察署の警察官に現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
一言で「放火」と言っても、何に放火したのかや、放火した現場の状況によって適用される法律が様々です。
本日は、放火の事件を、刑事事件に強い弁護士が解説します。
◇現住建造物等放火罪~刑法第108条~◇
現住建造物等放火罪とは、現に人が居住に使用し又は現に人がいる建造物等に放火し、焼損した場合に成立する犯罪です。
現住建造物等放火罪は、財産罪的性格を有する、典型的な公共危険罪です。
現住建造物等放火罪は、抽象的危険犯なので、客体を焼損すれば成立し、公共の危険を現実に発生させる必要はありません。
放火罪でいうところの「公共の危険」とは、不特定又は多数人の生命、身体、財産に危険を感じさせる状態をいいます。
「現に人が住居に使用する」とは、犯人以外の者が起臥寝食の場所として日常使用する事です。必ずしも特定の人が居住する必要はなく、夜間又は休日にだけ起臥寝食に使用される場合も、これに含まれます。
続いて「現に人がいる」とは、犯人以外の者が現存することです。
ちなみに現住建造物等放火罪が成立するには、犯人が現住性を認識している事が必要となります。
例えば、犯人は「空き家で誰もいないと思って放火した」が、たまたまホームレスが住みついていた場合などは、犯人に現住性の認識が認められないので、非現住建造物等放火となる場合もあります。
現住建造物等放火罪は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役の罰則が定められています。
殺人罪に匹敵する非常に厳しい処罰規定で、起訴されれば、裁判員裁判の対象事件です。
◇非現住建造物等放火罪~刑法第109条~◇
非現住建造物等放火罪とは、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物等に放火し、焼損した場合に成立する犯罪です。
ちなみに「現に人が住居に使用せず」「現に人がいない」とは、犯人以外の者を意味するので、犯人が独り暮らししている住居に放火した場合は非現住建造物等放火罪となる可能性が大です。
非現住建造物等放火罪は、放火されて焼損した建造物等が他人所有の場合と、自己所有の場合によって法定刑等が異なります。
①他人所有の非現住建造物等放火罪の場合
他人所有の非現住建造物等放火罪の法定刑は「2年以上の有期懲役」です。
現住建造物等放火罪ほど厳しいものではありませんが、罰金刑の規定がない非常に厳しい罰則です。
他人所有の非現住建造物等放火罪は、現住建造物等放火罪と同様に抽象的危険犯であるために、成立するために公共の危険が発生する必要はなく、未遂犯も処罰の対象となります。
②自己所有の非現住建造物等放火罪の場合
自己所有の非現住建造物等を放火した場合、公共の危険が生じた場合にのみ刑事罰の対象となります。
その場合の法定刑は「6月以上7年以下の懲役」です。
自己所有の非現住建造物等放火罪のような法律を具体的危険犯といい、未遂の処罰規定はありません。
◇建造物等以外放火罪~刑法第110条~◇
建造物等以外放火罪は、上記刑法第109条及び第110条以外の放火し、公共の危険が生じた場合に成立する犯罪です。
自動車や、家具類、ゴミ等、放火の対象となる物は様々ですが、森林については森林法の適用を受けるため対象となりません。
建造物等以外放火罪についても、非現住建造物等放火罪と同様に、自己所有の物に放火した場合と、そうでない場合で法定刑が異なります。
①他人所有の建造物等以外放火罪の場合
法定刑は1年以上10年以下の懲役です。
②自己所有の建造物等以外放火罪の場合
法定刑は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
自己所有の放火の罪の中で唯一、罰金の罰則が規定されています。