具体例
ケース
大阪府高槻市、阪急高槻市駅近くに在住のAさんは、日頃から仲が悪かった隣人のBさんと口論になり、ついカッとなってBさんを右手で一発殴ってしまいました。
Aさんは、自分とBさんの体格差がかなりあったため、殴ってもBさんが怪我をすることはないと思っていました。
しかし、Bさんはバランスを崩し、転倒。
コンクリートの地面に頭を打ち付け、即死しました。
Aさんは、Bさんを殺してしまったことが発覚するのを恐れ、Bさんの遺体を近くの山中に埋めました。
Aさんには何罪が成立するでしょうか?
(フィクションです)
(問題となる条文)
【傷害致死罪(刑法205条)】
「身体を傷害し」「よって」「人を死亡させた」場合、「3年以上の有期懲役」となります。
【死体遺棄罪(刑法190条)】
「死体」を「遺棄」した場合、「3年以下の懲役」になります。
(解説)
傷害致死罪は、他人にけがをさせた結果、それが原因で死亡した場合に罰するための規定です。
殺意が不要であるという点で、殺人罪とは異なります。
また、少なくとも他人を暴行するという意思がある場合を規定しているという点で過失致死罪とも異なります。
ですから、他人を殺すつもりはなかったが、一発殴ってやるという意思があった場合などで、かつ暴行行為が原因で人の死亡という結果が生じてしまったという因果関係が認められるときに傷害致死罪が成立するのです。
今回のケースでは、AさんはBさんを殴ってしまいましたが、決してケガさせる意思があったわけではありませんし、ましてや殺そうとは到底思っていなかったと考えられます。
しかし、少なくともBさんに暴行をはたらく意思があったことは認められます。
また、Bさんの死因はAさんの暴行によって転倒した時にコンクリートに頭を打ち付けたことですから、Aさんの暴行によってBさんが死亡したことも明らかです。
したがって、今回のケースでは、Aさんに傷害致死罪が成立すると言えるでしょう。
次に、AさんはBさんの遺体を近くの山中に埋めています。
この行為は、死体遺棄罪に当たると言えるでしょう。
ここでいう「遺棄」というのは、単に遺体を放置するだけでは足りません。「遺棄」とは、遺体を死亡現場から移動させたうえで、放棄・隠匿した場合を言います。
今回のケースでは、AさんはBさんの遺体を近くの山中まで運んで埋めているので、「遺棄」したものと言えるでしょう。
ちなみに、遺体に関わる犯罪として、他にも死体損壊罪というものもあります。
死体損壊罪の刑罰は、死体遺棄罪と同じく、3年以下の懲役と定められています。
傷害致死事件における弁護活動
1 真犯人がいることの主張
身に覚えがないにもかかわらず、傷害致死事件の容疑者として捜査対象に挙げられてしまう場合があります。
そんなときは、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出したり、傷害致死罪として起訴・有罪にするには証拠が十分にそろっているとは言えないことなどを主張したりします。
逮捕など身体拘束されている状態でこうした活動を自らすることは不可能ですし、そうでなくとも一般の方が行うにはかなりの困難が伴います。そのため、一般的に弁護士を通じこれらの活動を行うことになります。
2 暴行の故意がないことの主張
傷害致死罪が成立するには、少なくとも暴行の故意がなければなりません。
そこで、加害者の行為に暴行の故意はなかったと言いうる場合は、その点を強く主張し、傷害致死罪の有罪判決や傷害致死事件としての起訴を阻止します。
3 因果関係がないことの主張
犯罪が成立するには、加害者の行為と被害結果との間に因果関係がなければなりません。
傷害致死罪の場合でも同じです。
そこで、傷害致死事件の弁護活動では、本当に被告人の傷害行為・暴行行為によって被害者が死亡したのか疑わしい場合、その点を徹底的に追及します。暴行行為と死亡結果との因果関係が否定された場合、傷害致死罪ではなく、暴行罪や傷害罪が成立するにとどまることになるため、被害者遺族との示談などの活動により不起訴や大きな減刑を得ることができる可能性が高くなります。
4 正当防衛・緊急避難の主張
傷害致死事件でも、事情を詳細にみると自己または家族など大切な人への攻撃に対する反撃としてなされた場合、あるいは自己または家族などを守るためやむを得ず第三者を傷つけてしまった場合があります。
こんな場合は、傷害行為・暴行行為が正当防衛・緊急避難行為に当たるとして違法性が阻却される可能性があります。
したがって、弁護士としては様々な客観的状況や目撃証言を収集し、加害者の行為が事件当時やむを得ない行為であったとして正当性を主張していきます。
5 情状弁護
傷害致死事件を起こしてしまったことについて全く争いがない場合でも、犯行に至った経緯や動機、犯行後の状況などに鑑みて、刑を軽くしてもらうように弁護活動を進めていくことが可能です。
これを情状弁護と言います。
弁護士は、犯行前後の経緯や状況を綿密に調べ、例えば介護疲れ・心中崩れなどの事情があれば、それを強く訴え減刑又は執行猶予付きの判決を目指します。
傷害致死罪で起訴された場合には、裁判員裁判の対象になります。
裁判員裁判では一般人が有罪無罪や量刑について判断するため、一般の方に対しても分かりやすく説得的な主張をする必要があります。
傷害致死事件で家族、友人が逮捕された、今後が不安という方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所-大阪支部の弁護士へご相談ください。