具体例
ケース
大阪市都島区在住のAさんは、都島区に隣接する北区の路上で前を歩いていた女性のバックを追い抜きざまにひったくりました。
あっという間の出来事で、女性は抵抗する間もありませんでしたが、すぐに「ドロボー!!」と叫びました。
すると、近くにいた男性がひったくりに気づき、逃走したAさんの後を追いかけました。
数十メートル走ったところで、男性はAさんに追いつきましたが、その際Aさんは男性に捕まらないために男性の顔面を拳で一発殴打しました。
男性はその場で倒れ、Aさんを見失ってしまいましたが、幸い怪我をすることはありませんでした。
Aさんはどのような罪に問われるでしょうか?
(フィクションです)
(問題となる条文)
【窃盗罪(刑法235条)】
「他人の財物を」「窃取した」場合、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。
【事後強盗罪(刑法238条)】
「窃盗が」「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ」、「逮捕を免れ」又は「罪跡を隠滅するために」「暴行又は脅迫した」場合、強盗として扱われます。
すなわち、5年以上の有期懲役になります。
(解説)
いわゆる「ひったくり」事件は、多くの場合、窃盗事件として扱われます。
しかしながら、その犯行態様によっては、強盗事件として扱われます。
この違いのポイントは、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫があるかないか、という点です。
一般的に問題となる強盗事件の場合、被害者の物を奪い取る際に、被害者に暴行を加えたり、「金を出せ」などと脅迫したりします。
そのため、ひったくりのケースでも、ひったくりの際に、被害者ともみ合いになり、被害者に暴行を加え無理矢理かばんを奪い取ったというような場合には、強盗事件として扱われます。
もっとも、今回のケースでは、このような場合の強盗とは異なります。
Aさんの暴行が、被害女性の物を盗み終わった後に行われているためです。
今回のケースでは、すでに窃盗罪が完結しているとみると窃盗罪と暴行罪が成立するようにも思えます。
しかし、窃盗犯が逮捕されるのを避けるため等に、暴行や脅迫することがよくあるため、法律上、事後強盗罪(刑法238条)という一つの犯罪類型として、強盗罪と同様に処罰することとしたのです。
今回のケースでAさんは、被害女性からバックを奪い取っており、窃盗犯といえます。
その後、女性の「ドロボー!!」との叫び声を聞いた男性が、Aさんの後を追いかけ、捕まりそうになったところで、Aさんは追いかけてきた男性の顔面を拳で一発投打しました。
これは、Aさんが男性に捕まらないように、すなわち逮捕を免れるため、暴行を加えたものと言えます。
よって、Aさんには、事後強盗罪(刑法238条)が成立し、「5年以上20年以下の懲役刑」が科されることとなります。
窃盗事件における弁護活動
1 不起訴処分又は無罪判決の獲得
身に覚えがないのに窃盗犯の疑いをかけられ、逮捕されたり取り調べられたりすることがあります。
そんなときは、決して虚偽の自白をせず、自分はやっていないということを強く主張しなければなりません。
もっとも、不起訴処分や無罪判決を勝ち取るには、アリバイがあることや真犯人を示す証拠があること、捜査機関の見解は十分な証拠に基づくものではないことを説得的に主張しなければならず、容易な事ではありません。
ですから、早い段階で法律の専門家である弁護士を依頼し、自分に盗む意図がなかったことや客観的証拠から自分が盗んだ可能性はないことなどを主張してもらいましょう。
2 早期の示談成立
窃盗罪の成立に争いがない場合、弁護士を通じて早期に被害者の方に対する被害弁償や示談交渉を進めることが重要です。
なぜなら、窃盗事件の被害届が提出される前に示談が成立した場合、警察の介入を回避できますし、警察介入後であっても早期釈放や不起訴処分など早期の職場復帰や社会復帰を実現できる可能性が高くなるからです。
仮に裁判が始まった後の示談であっても、執行猶予付き判決や減刑など効果があります。
3 情状弁護
窃盗罪として有罪を免れない時であっても、犯行動機、犯行手口、被害額、同種前科の有無など諸般の情状を慎重に検討した上で、裁判所に対して適切な主張・立証を行うことで情状酌量の余地を示し、執行猶予判決を獲得することを目指します。