~事件~
現場作業員Aは、同僚と二人で、泉南市の道路を工事中、同僚が体調不良を訴えて急に意識を失ってしまいました。
Aは、無免許であるにもかかわらず、車を運転して同僚を病院に搬送しようとしましたが、スピードを出し過ぎてしまい、大阪府泉南警察署の警察官に捕まってしまいました。
無免許運転が発覚したAは、緊急避難を主張しています。なお同僚は警察官が要請した救急車で病院に搬送され一命をとりとめました。(フィクションです。)
~緊急避難~
刑法第37条に「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を軽減し、又は免除することができる。」と緊急避難を定めています。
緊急避難が成立するには
①現在の危難が存在すること
②やむを得ない行為であること
③生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと
の要件全てを満たしている必要があります。
今回の事件を検証してみますと、まず①「現在の危難が存在する」という点についてですが、「危難」とは法益に対する実害又は危険の状態をいい、その発生の原因のいかんを問わないとされているので、同僚が体調不良を訴えて意識不明に陥ったことは、現在の危難が存在するといえるでしょう。
続いて②「やむを得ない行為である」という点ですが、これは緊急避難が、危難を避けるための唯一の方法であって、他にとるべきみちがなかったことを意味します。
Aの行為が緊急避難と認められるには、無免許運転で病院に搬送することが、同僚の命を救う唯一の方法でなければいけません。
現場の状況にもよりますが、携帯電話機で119番通報したり、他の通行車両に助けを求めることができる環境であれば、Aの行為について緊急避難が否定される可能性が高いです。
最後に③「生じた害が避けようとした害の程度を超えない」という点については、同僚の命という高価値なものを救うために、それより小さな法益価値の無免許運転を犯しているので、Aの行為は法益権衡の原則を破るものではありません。
この様な観点からAの無免許運転に緊急避難が認められるか否かは、それが同僚の命を救うための唯一の方法であったか否かに左右されるといえます。