バーの経営者が酒に酔った客を路上に放置したとして、保護責任者遺棄致死罪で、大阪府南警察署に逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
参考事件
Aさんは、大阪ミナミの歓楽街にあるビルの一室を借りてバーを経営しています。
2週間ほど前に、一人で来店していた常連客がお店の中で酔い潰れてしまい、閉店時間になっても寝込んだままだったので、Aさんは閉店してお店を出る際に、この常連客を抱えて店外に出し、ビルの階段に放置して帰宅したのです。
そうしたところ、翌日、ビルの清掃業者が亡くなっているこの常連客を発見したのです。
すぐにAさんは大阪府南警察署に呼び出されて事情聴取を受けたのですが、それからしばらくして保護責任者遺棄致死罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
保護責任者遺棄致死罪
幼児や高齢者、身体障害者、病人を保護する責任がある者が、放置したり、生存に必要な保護をしなかったりして、要保護者を死亡させると、保護責任者遺棄致死罪となる可能性があります。
保護責任者遺棄致死罪で客体となる要保護者とは、老年者、幼年者、身体障害者又は病者です。
ここでいう「病者」とは、刑法第217条に規定されている「遺棄罪」でいうところの疾病のために扶助を必要とする者と同じ意味です。
病気や傷害等により、肉体的、精神的に疾患のあることを意味し、その原因のいかん、治癒の可能性の有無、疾病期間の長短は問われません。
薬物等の影響や、泥酔ににより意識を失っている者もこれに含まれます。
ちなみに、扶助を必要とする者とは、他人の助けがなければ日常生活を営むための動作ができない者で、生活資力を自給し得るかどうかは問われません。
保護責任者遺棄致死罪の主体は?
保護責任者遺棄致死罪で主体となるのは、上記客体を保護する責任のある者に限られます。保護責任は、法令の規定、契約、慣習、事務管理、条理によって発生する法律上のものでなければなりません。
幼児の保護者や、老人の介護者は当然のこと、病人を看護する看護師や、幼児の面倒をみるベビーシッターも保護責任者遺棄致死罪の主体となるでしょう。
Aさんは主体となり得るの?
泥酔者に対する保護責任がしばしば問題となっています。
これまで泥酔者に対する保護責任が認められた例としては、一緒に飲んでいて泥酔した仲間を、いったんは介抱されていたものの、その後放置して死亡させた事件や、タクシーの運転手が、タクシーの中で泥酔して寝込んだ客を、タクシーから降ろして路上に放置して死亡させた事件等があります。
これら過去の事件を考えると、自分の店で泥酔して寝込んでいる客に対して、店主であるAさんには保護責任があると考えるのが妥当ではないでしょうか。
遺棄とは?
保護責任者遺棄致死罪でいう「遺棄」とは、要保護者を場所的に移動させるだけでなく、置き去りのように、要保護者を危険な場所に遺留して立ち去る行為も含まれます。
Aさんのように、泥酔して店内で寝ているお客さんを店外に連れ出して放置している行為は「遺棄」に該当するでしょう。
保護責任者遺棄致死罪の法定刑は?
保護責任者遺棄致死罪は、刑法第219条に規定されている法律です。
保護責任者遺棄致死罪で起訴されて有罪が確定した場合は、刑法第218条に規定されている保護責任者遺棄罪の法定刑(3年以上5年以下の懲役)と刑法第204条に規定されている傷害罪の法定刑(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)と比較して、重い刑が適用されるので、実質的な法定刑は「3カ月以上15年以下の懲役」となります。
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