具体例
ケース
大阪市此花区在住のAさんは、JRゆめ咲線ユニバーサルシティ駅近くの雑貨店で雇われ店長として勤務しています。
Aさんは雑貨店の商品を会社に内緒で度々自宅に持ち帰っていました。
同店のオーナーは、商品の在庫管理に不審な点があり、Aさんが商品を持ち帰っていることが発覚したため、大阪府此花警察署に被害届を提出しました。
後日、Aさんは、業務上横領事件の被疑者として大阪府此花警察署に逮捕、勾留されました。
Aさんの家族は、弁護士事務所に無料相談の予約をすべく電話をかけました。
(フィクションです。)
(問題となる条文)
【横領罪(刑法252条以下)】
・単純横領罪→「自己の占有する他人の物」を「横領した」場合、「5年以下の懲役」となります(刑法252条1項)。
・業務上横領罪→「業務上」「自己の占有する他人の物」を「横領した」場合には、「10年以下の懲役」になります(刑法253条)。
(解説)
横領罪とは、他人から預かった他人の物、又は業務上自分が占有している物等を何の権限もなく勝手に売ったり、使ったりする行為をすることで成立します。
横領罪が成立するためには、被害物品を誰が占有(物に対する事実上の支配)していたかという点の判断が重要なポイントとなります。
物の占有が被害者にあれば、物を奪ったときに成立する犯罪は、横領罪ではなく窃盗罪(刑法235条:10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)ということになります。
これは窃盗罪が被害者の占有を侵害する犯罪であるためです。
一方、加害者が物の占有をしていたといえる場合、横領罪が成立します。
また、横領罪には、単純横領罪のほか、業務上横領罪、遺失物等横領罪などの類型が規定されています。
そして、業務上横領罪に当たる場合には、被害者との委託信任関係への侵害の程度が強いため、単純横領罪より重い法定刑が定められています。
今回のケースで、Aさんは雇われ店長としての地位に基づく商品の占有の有無が問題となります。
Aさんが、同店のオーナーから雑貨店の管理全てを任されているなど強い処分管理権限を持っていたと認められる場合には、雑貨店の商品について事実上の支配をしていたといえるでしょう。
その場合、業務上横領罪が成立すると言えます。
一方で、Aさんが名目上の店長であり、処分権限など認められていないような場合には、店内の商品を事実上支配しているとは言い難いといえます。
そのため、店内の商品を自宅に持ち帰ったときには、横領罪ではなく窃盗罪が成立すると考えられます。
横領事件における弁護活動
1 不起訴処分・無罪判決の獲得
たとえお店の商品を持ち出したとしても、その目的がより安全確実に商品を管理するためであった場合などには、横領罪は成立しないと考えられます。
横領罪の成立に必要な不法領得の意思(任務に背いて権限がないのに所有者でしかできない行為をする意思)が欠けているといえるからです。
にもかかわらず、警察や検察の捜査対象になってしまった場合、決して虚偽の自白をすることなく無実を主張しましょう。
依頼を受けた弁護士は、不法領得の意思がないという客観的な証拠を収集提出する、アリバイや真犯人がいることを証明する証拠を収集提出するなど、依頼者の無実を証明し不起訴処分・無罪判決を勝ち取るための弁護活動を積極的に行います。
2 早期の示談成立
横領罪の成立に争いがない場合、いたずらに犯行を否認してもかえって捜査機関や裁判官の心証を悪くし、長期の身体拘束や重い量刑につながりかねません。
ですから、そのような場合は素直に犯行を認め、被害者に対する謝罪、被害弁償をした上で早期の示談を成立させることが肝要です。
示談が成立すれば、早期の釈放・保釈が認められやすくなります。
また早い段階で弁護士に依頼すれば事件化(警察の事件介入)を防止したり、不起訴処分で事件を終えたりすることができる可能性もあります。
示談による事件の早期解決は、社会復帰や職場復帰の実現可能性を高めます。
事件を起こしてしまっても、それを悔い改め新たな人生を踏み出すために弁護士に早期の示談成立をお願いしましょう。
3 情状弁護
横領罪の成立に争いがない状態で刑事裁判になってしまった場合、被告人に関する様々な事情を主張しできるだけ軽い量刑で済ませてもらうための弁護活動を「情状弁護」といいます。
被害弁償・示談の成立、犯行の経緯や動機など諸般の事情を精査した上で、情状酌量の余地があると裁判官に対して示すことができる事情を説得的に主張して、執行猶予付き判決や減刑を目指します。