無職Aは、車を運転中に歩行者とトラブルになりました。
Aがその場から立ち去ろうとすると、トラブルの相手が後部座席の窓枠を掴んできましたが、Aはそのまま車を発進させました。
トラブルの相手を引きずりながら約1.5キロメートル走行した時点で、力尽きた相手は手を離し、道路にたたきつけられて軽傷を負いましたが、Aはそのまま逃走しました。
後日Aは、大阪府阿倍野警察署に、殺人未遂罪で逮捕されました。(平成30年5月18日TBSNEWS配信のネットニュースを参考にしたフィクションです)
1 殺意
殺人未遂罪とは、殺意をもって、人を殺そうと実行に着手したが、殺すことができなかった場合に成立する犯罪です。
殺人未遂罪でよく争点になるのが「殺意」です。
「殺意」とは、人を殺す意思、つまり「故意」のことで、殺人未遂罪で「殺意」が認められなければ、傷害罪や過失傷害罪となる可能性が高いです。
「殺意」は、「絶対に殺す。」「絶対に死ぬ。」といった確定的故意である必要はなく、未必的故意、条件付故意、概括的故意でもよいとされています。
つまり、「死ぬかもしれないが、別に死んでも構わない。」といった容認があれば、殺意は認められてしまいます。
2 量刑
殺人未遂罪の罰則規定は、殺人罪と同じ「死刑又は無期若しくは5年以下の懲役」と非常に厳しいものです。
ところが、殺意が認められず傷害罪や過失傷害罪になれば、傷害罪だと「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、過失傷害罪にいたっては「30万円以下の罰金又は科料」と軽減されます。
今回の事件では、Aに確定的な故意があったとは考えられませんが、引きずりながら1.5キロメートルも走行していることを考慮すれば、未必的故意が認められる可能性は高いでしょう。
この様な事件で殺意が認められるか否かは、犯人の供述だけでなく
・引きずったまま走行した距離
・引きずったまま走行している速度
・引きずったまま走行した道路事情(通行量等)
等の客観的事情によっても判断されます。