具体例
ケース1
Aさんは、東大阪市にある布施駅の近くに自動車を駐車し、近くのスーパーに買い物に行きました。 買い物から戻ると、駐車監視員がAさんの自動車に駐車禁止の標章を貼り付けるところでした。 Aさんは、何とか駐車禁止違反による罰金を阻止しようと、駐車監視員の顔面を殴ってしまいました。 Aさんは、何罪に当たるでしょう?
(フィクションです)
(問題となる条文)
【公務執行妨害罪(刑法95条)】
「公務員が」「職務を執行するに当たり」公務員に対して「暴行又は脅迫を加えた」場合、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」になります。
(解説) 今回のケースで、Aさんは駐車監視員の顔面を殴っているため、少なくともAさんの行為は暴行罪(刑法208条)に当たることは間違いないでしょう。 しかし、駐車監視員が公務執行妨害罪に規定される「公務員」にあたると言えるのであれば、公務執行妨害が成立します。 暴行罪の場合、法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。 一方、公務執行妨害罪となれば、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金ですから、両罪の法定刑には看過できない差があります。 そこで、今回のケースでは、駐車監視員が「公務員」に当たるか否かが大きな問題なのです。 さて、駐車監視員が公務員に当たるかどうかということですが、実務上は駐車監視員も公務執行妨害罪で問題となる公務員に当たると解されています。 したがって、今回のケースではAさんに公務執行妨害罪が成立すると言えるでしょう。
ケース2
Aさんは、大阪市西成区の路上で覚せい剤を売っているBさんに声をかけ、覚せい剤を購入しようとしていました。 そこにパトロール中の警察官らが通りかかり、AさんとBさんを不審に思った警察官らが職務質問をしました。 突然警察から声をかけられたAさんは、慌てて持っていたアンプルを警察官の面前で粉々に破壊しました。 また同時に、現行犯逮捕されるのを妨げるため、警察官に向かって石を投げましたが当たりませんでした。 これらのAさんの行為は、公務執行妨害罪に当たるでしょうか?
(フィクションです)
(解説) 公務執行妨害罪が成立するためには、公務員に対して「暴行」を加えたと言えなければなりません。 ここでいう「暴行」というのは、暴行罪などでいう暴行とは異なり、もっと幅広い行為を暴行に当たると解しています。 具体的には、公務員の身体に対して直接加えられた行為だけでなく、物に対する暴行で間接的に公務員に向けられたと解される場合でも良いとされています。 また、暴行の程度としては、公務の執行を妨げるに足りる程度であればよく、実際に公務の執行を妨害するという結果が生じたことまでは必要とされていません。 このように考えられているのは、公務執行妨害行為を禁止し刑罰を定めることによって守ろうとする法益が、公務員個人の身体などではなく、「公務を円滑に執行する」という利益であるからです。 今回のケースで、Aさんは警察官に石を投げ、アンプルを粉々に破壊していますが、これらの行為は実務上いずれも公務執行妨害に当たると解されています。 なぜなら、アンプルを破壊する行為や警察官に石を投げる行為は、直接公務員に向けられた行為、あるいは結果が発生した行為とは言えなくとも、間接的には公務員に向けられた行為で、公務の円滑な執行を妨げる行為であると言えるからです。
公務執行妨害事件における弁護活動
1 真犯人・アリバイの存在を主張する
人違いの場合など、全く身に覚えがないのに公務執行妨害事件の容疑者として捜査対象にされてしまう場合があります。 このような場合、弁護士はアリバイや真犯人を示す証拠を提出したり公務執行妨害罪が成立したことを証明するに足りる証拠が不十分であることを主張したりして、無罪判決や不起訴処分などを勝ち取り、依頼者の方を守ります。
2 職務行為が違法であることを主張する
公務執行妨害罪が成立するためには、公務員の行為が適法なものでなければなりません。 そこで、問題となった公務員の職務行為に違法の疑いが生じた場合、弁護士はその点を徹底的に追及し無罪判決・不起訴処分の獲得を目指します。