おふざけ動画で刑事事件化
動画拡散が刑事事件化した場合について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。
~事例~
大阪府守口市に住むフリーターのAは、自宅近くの飲食店でアルバイトをしていました。
退屈していたAは、悪ふざけで食品をゴミ箱に入れたりする様子をカメラで撮影しました。
そして、その動画をインターネット上にアップロードしたところ、ネット上で大きな騒ぎとなり、ついには、ワイドショーなどでも紹介されるようになりました。
店側も刑事告訴を含めて検討しているとの報道を見て、怖くなったAは、刑事事件に強い弁護士の無料法律相談に行くことにしました。
(この事例はフィクションです。)
◇業務妨害◇
まず思いつくのが業務妨害罪ではないでしょうか?
業務妨害罪は、刑法第233条に定められている「偽計業務妨害罪」と刑法第234条に定められている「威力業務妨害罪」に分かれています。
~偽計業務妨害罪~
偽計業務妨害罪とは、虚偽の風評を流布し、又は偽計を用いたりして業務を妨害する事で刑法第233条に定められています。
「偽計」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤、不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いる事とされています。
簡単な表現で「人を騙す」といった行為が、偽計に当たると考えればわかり易いのではないでしょうか。
~威力業務妨害罪~
威力業務妨害罪とは、威力を用いて人の業務を妨害する事で刑法第234条に定められています。
「威力」とは、刑法上は「人の意思を制圧するような勢力」と定義されています。
分かり易く表現すると、人が自由な意思で決めたり、行動する事に対して圧力をかける事で、暴行、脅迫を用いた場合は当然の事、そこまでいかなくても、客観的にみて人の自由意思を制圧するもので足りるとされています。
「威力」と「偽計」の区別は、行為の態様又は結果のいずれかが、公然・誇示的、可視的であれば「威力」で、これらが非公然・隠密的、不可視的であれば「偽計」であるとの判断基準が一般的です。
今回の事件のように、不適切な動画を投稿することは、、公然・誇示的、可視的であるといえるので、今回の事件が業務妨害罪に抵触するのであれば、威力業務妨害罪に当たると考えられます。
ただ、今回の事件が威力業務妨害罪に当たるかどうかについては難しいのではないでしょうか。
その一つの理由として「故意」が考えられます。
業務妨害罪の故意としては、他人の業務を妨害する可能性があることの認識があれば足り、それ以上に積極的に人の業務を妨害する目的意思までは必要としないとされています。
今回の問題となっている動画を見た刑事事件専門の弁護士の見解は「食材をゴミ箱に投げ入れたアルバイト従業員や、その様子を動画に撮影してインターネットに投稿した撮影者に、飲食店の業務を妨害するまでの積極的な意思はないように思われます。インターネットが普及して、この手の動画が大きな社会的反響を引き起こすことは容易に想像できるでしょうが、業務妨害罪が成立するまでは難しいと思います。」とのことです。
◇軽犯罪法違反◇
軽犯罪法では、他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害することを禁止しています。(第1条第31項)
刑法で定められている業務妨害罪の法定刑が「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であるのに対して、軽犯罪法違反の場合は「拘留又は科料」です。
法律名にもなっているように、軽微な犯罪を取り締まるための法律なので、罰則規定も非常に軽くなっています。
不適切な動画の配信、拡散が世間で話題になり、様々な反響が起こっていますが、インターネットの普及と、スマートフォン利用者の増加に伴って、世間では、その様な環境を厳しく取り締まるべきだという声が大きくなっています。
ちょっとした悪戯が刑事事件化されることも少なくなく、これまで刑事事件化が困難として見過ごされていた行為に対しても、あらゆる法令が適用される可能性があるので注意しなければなりません。