大東市の救急救命士であるAは重症の患者を救急搬送する際、医師の指示を受けずに患者にアドレナリンを投与しました。
患者はAの行為により一命を取りとめましたが、Aが医師の指示なしにアドレナリンを投与したことが問題となり、消防局は警察署への通報を検討しています。
(この事件は朝日新聞デジタル2018年2月11日の記事を参考に作成したフィクションです。)
~救急救命士法違反~
救急救命士法44条1項は、救急救命士は医師の具体的な指示なく厚生労働省令で定める救急救命措置を行うことを禁止しています。
救急救命士法施行規則や通達によれば、救急救命士がアドレナリンを投与する際には、患者がアドレナリンを処方されていた場合を除いては、医師から薬剤の投与量や回数などの具体的な指示を受けなければなりません。
これに違反した場合、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金、又はその両方が科せられる可能性があります。
もっとも、医療の現場においては一刻を争う場合があります。
そのような場合、適切なタイミングで適切な措置を採る必要があることは言うまでもありません。
今回のケースでも、当時の患者の状況などから緊急避難が成立する可能性も少なからずあります。
~緊急避難~
緊急避難は「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」に成立します。
今回のケースでは、Aがアドレナリンを投与したことが「やむを得ずにした行為」といえるかどうかが争点となると考えられます。
弁護士としても、この点を争うため、患者のカルテや当時の状況を詳しくA本人や目撃者に聞き、証拠を収集することになるでしょう。
捜査段階からこのような活動を行い、警察署や担当検事と折衝することで、緊急避難が認められれば不起訴処分となる可能性もあります。。
Aが心配している救急救命士の資格に関しても、不起訴処分となった場合には資格が取り消される可能性は低くなるでしょう。