具体例
ケース
会社員Aさんは、通勤途中大阪府内の地下鉄御堂筋線を走行中の電車の中でたまたま目の前で背を向けて立っていた女性の右太ももを10分間にわたって撫で続けました。
被害女性は、自分が降車する駅に到着する直前自分の右太ももを触っていたAさんの手を掴み、Aさんとともに電車を降りました。
Aさんは、どういう罪で処罰されると言えるでしょうか?
(フィクションです)
(問題となる条文)
【大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる迷惑防止条例)違反】
「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」「公共の場所又は公共の乗物において」「衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること」(本条例6条2項1号)をした場合、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(本条例17条1項2号)になります。(ただし、他の都道府県では条例の内容が異なる場合がありますのでご注意ください。)
【不同意わいせつ罪(旧 強制わいせつ罪)(刑法176条)】
「1号から8号までに掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により」「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」「わいせつな行為をした」場合、「6カ月以上10年以下の拘禁刑(懲役)」になります。
1号から8号までに掲げる行為には、①暴行・脅迫を用いたこと、②心身の傷害を生じさせたこと、③アルコールなどを摂取させること、④睡眠など意識が明瞭でない状態であること、⑤同意するいとまがないこと、⑥恐怖や驚愕させること、⑦虐待起因、⑧地位に基づく影響力などが挙げられています。
(解説)
今回のケースでは、Aさんが被害女性の太ももを触り続けていたことは明らかですから、Aさんの行為が痴漢行為であるということはわかると思います。
しかし、痴漢行為を罰する規定については、2点注意すべき点があります。
まず1つ目は、いわゆる痴漢行為を罰する規定が2つあり、実務上それらを使い分けているということです。
一つは迷惑防止条例違反により罰する方法、もう一つは刑法の不同意わいせつ罪として罰する方法です。
これらは、法律上明確に区別されているわけではありませんが、接触行為の強度や相手方に与える恥辱感の大きさを基準として判断します。
具体的には、無理矢理キスしたとか下着の中に手を入れて触るといった態様の痴漢行為は、不同意わいせつ罪として処罰されます。
一方、衣服の上から身体を軽く触るだけの場合は、迷惑防止条例違反として処罰されるのが一般的です。
もっとも、身体に触れるという行為も態様によっては、不同意わいせつ罪に当たりえます。
例えば、服の上から触るとしても、無理矢理胸や尻を揉むといった行為は、接触行為の強度が強いと言え、不同意わいせつ罪になることが多くなります。
不同意わいせつ罪として起訴された場合、罰金刑はありませんから正式裁判となり、身体拘束が長期間にわたって行われてしまいます。
その点で、いずれの規定が適用されるかは大きな問題なのです。
2つ目は、不同意わいせつ罪の成立要件は被害者の年齢によって異なるということです。
被害者が16歳未満の場合、仮に同意があっても不同意わいせつ罪が成立します。
痴漢事件における弁護活動
1 痴漢冤罪であることの主張
痴漢行為をしていないにもかかわらず、痴漢の犯人に間違われ有罪判決を受けてしまう事件が、近年多数発生しています。
特に満員電車などの混雑した場所や明りの少ない夜道など暗い場所では、被害者が偶然の身体的接触を痴漢行為と勘違いしてしまったり、犯人ではない人を犯人と見間違えてしまったりして痴漢冤罪が発生しやすいと言えます。
また、痴漢冤罪を生み出す大きな原因として、逮捕された人が嘘の自白をしてしまうことも挙げられます。
もし自分が痴漢の犯人に間違われてしまったらすぐに弁護士に相談してください。
速やかに疑いをかけられた方のもとに駆け付け、痴漢冤罪を生み出さないよう、的確なアドバイスを行います。
さらに痴漢事件では、特に被害者の供述が重要な証拠とされますから、痴漢の疑いを晴らすために、弁護士を通じて独自の捜査を行い、目撃者の証言やその他の客観的証拠を積み上げ被害者の証言が信用性に欠けることを説得的に主張することが肝心です。
2 早期の示談成立
痴漢行為をしてしまった場合でも、刑事裁判で有罪判決を受けることを回避できれば、前科がつくことはありません。
そこで、痴漢事件でも不起訴処分を受けるための弁護活動を積極的に行います。被害者との間で示談が成立しているという事情は、起訴不起訴の判断に大きく影響します。
被害者との示談は、刑事事件において非常に効果のある弁護活動であるわけですが、一般の方が行うということは非常に難しいと言えます。被害者との示談をお考えの方はぜひ弁護士にご相談ください。
3 早期の身体解放
痴漢事件で逮捕された場合でも、適切な取調べ対応をし、適切な弁護活動を受けることによって早期に身体解放されることがあります。
具体的には、逮捕後の勾留手続に進まないように手を尽くすことが肝心です。
そのためには、できるだけ早期に弁護士に相談して適切なアドバイスを求め、釈放後の生活をサポートする身元引受人の協力を得ることが必要です。
また、弁護士のアドバイスのもと検察官や裁判官に自分がどれほど真摯に反省しているのか、どれほど更生に対する意欲があるのかを強く主張していきましょう。