全国で、スカウトした女性を風俗店に紹介したとして職安法違反で逮捕される事件が相次いでいることをご存知でしょうか。
そこで今回のコラムでは、スカウト行為がどういった犯罪に抵触するのか、逮捕理由となっている職業安定法や組織犯罪処罰法とはどういった法律なのかについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部が解説します。

職業安定法とは
職業安定法は、それぞれの労働者の能力に合った職業に就く機会を提供することによって、職業の安定を図り、経済および社会を発展させていくことを目的に、求人や職業紹介におけるルールを定め、求人や職業紹介を適正に運営するために必要なルールが定められています。
この法律では、公共の福祉に反しない限り、誰でも自由に職業を選択できると当然のルールが定められています。

職業の紹介
職業安定法は、・職業の紹介・労働者の募集・労働者の共有と、大きく3つの項目について分類されており、それぞれの項目で細かいルールが定められています。
スカウトした女性に職業を斡旋する行為については、職業の紹介に該当します。
それでは、ここで職業の紹介について解説します。
職業安定法において、職業の紹介とは、労働者を求めている会社(お店)側と、仕事を求めている労働者側の間に入って、双方の間における雇用関係の成立を斡旋する行為です。
仕事を探している人から「何かいい仕事ないか?紹介してよ」と言われた人が、知り合いのやっている会社(お店)を紹介し、その会社(お店)で仕事を探していた人が働き始めると、職業の紹介に当たるでしょう。
世の中には、こういった職業の紹介を行っている会社(職業紹介業)が多数ありますが、こういった職業紹介業を営むには、定められた手続きを踏み、厚生労働大臣の許可を得る必要があります。
この許可を得ずに有料で職業紹介を行うと「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」の刑事責任を問われることになるので、有料で職業紹介を行う際は、必ず決められた手続きを行い、厚生労働大臣の許可を得るようにしましょう。
違法となる職業紹介
職業安定法では、有害業務に就かせる目的で、職業の紹介をしたり、労働者の供給を行う行為が禁止されています。
同法第63条
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、1年以上10年以下の拘禁刑又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。
1項(省略)
2項 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき。
ここでいう「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」とは、一般的に、社会共同生活上守られるべき道徳を害する業務を意味します。
性風俗店やアダルトビデオ等の性産業が代表的な例となりますが、職業安定法における公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に該当するかどうかは、その仕事が違法であるかどうかは関係ありません。
すなわち、風営法(風俗営業法)を守り違法な行為を行っていない優良な性風俗店であっても、職業安定法における公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務を行うお店には該当してしまいます。
スカウトの実態
数年前から女性を性風俗店に斡旋したして職業安定法違反で摘発を受けるスカウトが相次いでいます。
これまで報道されてきた記事によりますと、こういったスカウトはグループ(組織)で活動しており、全国に大きなグループ(組織)がいくつか存在するようです。
スカウトグループは、契約している全国の性風俗店にスカウトした女性を紹介し、紹介を受けた女性が性風俗店で稼働した売り上げの一部が、性風俗店からスカウトグループに支払われる仕組みになっていたようです。(スカウトバック)
都心を中心に活動してきたスカウトグループは、約5年間で約7,800人もの女性を性風俗店に紹介し、60億円にも及ぶ収益を得ていたとされています。
警察はこういったスカウトグループの資金が、暴力団などの反社会勢力に流れていたとみて数年前から取り締まりを強化しています。
ちなみにこういったスカウトグループによるスカウト行為のほとんどは、実際に街中で声をかけるといったものではなく、SNS上で行われていたようです。
警察の摘発を受けたスカウトグループによると、SNS上で募った女性を、契約している全国の性風俗店に一斉に紹介し、お店側から女性の1日の稼ぎとして約束する「最低保証金」を提示させて、最終的に、一番最低保証金の高かったお店に女性を紹介するといったシステムだったようです。

犯罪収益
先述したようにスカウトグループは、風俗店に紹介した女性がお店で働いたお金の一部を受けって莫大な利益を得ていたようです。
いわゆるスカウトバックです。
このスカウトバックについては、組織犯罪処罰法上の「犯罪収益」に該当するとして犯罪収益等収受の罪で有罪判決を言い渡された判例があります。(東京地裁令和6年12月19日判決)
犯罪収益については、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(略称「組織犯罪処罰法」)という法律で厳しく規制されています。
組織犯罪処罰法
一般的に組織犯罪処罰法と呼ばれることがよくありますが、この法律の正式名称は『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律』です。
組織犯罪処罰法では、ある殺人や、詐欺、常習賭博等の一定の犯罪を組織的に行った場合に、その刑罰を加重することを規定していほか、犯罪収益についても規定がされています。
犯罪収益については、犯罪組織の資金源断絶やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止するための規制がなされ、組織的犯罪による犯罪収益については没収や、追徴ができるとされています。
組織犯罪処罰法の対象
組織犯罪処罰法は、組織的に犯罪を行う団体を対象としている法律です。
ここでいう団体というのは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であることや、目的または意思を実現する行為の全部または一部が、組織により反復して行っている団体であるとされています。
代表例としては暴力団や、違法薬物の密売グループ、特殊詐欺集団等が挙げられますが、今回のテーマとなっているスカウトグループについても、組織犯罪処罰法の対象となることは間違いありません。
犯罪収益に関する規定
職業安定法違反に該当するスカウト行為でスカウトバックを受け取ると、そのスカウトバックは、組織犯罪処罰法でいうところの犯罪収益に該当します。
この犯罪収益については、組織犯罪処罰法の中で受け取ることが禁止されているだけでなく、受け取り方によっては、より厳しい刑事責任を問われる可能性があります。
①収受
職業安定法に違反するスカウト行為と知りながら、それによるスカウトバックを受け取ると組織犯罪処罰法第11条に定められている犯罪収益等収受に該当します。
犯罪収益等収受の法定刑は「7年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科」です。
②隠匿
犯罪収益等の収受より厳しい刑事責任に問われるのが、犯罪収益等の隠匿です。
スカウトバックを受け取る際に、そのまま現金で受け取っていたのであれば、収受にとどまる可能性が高いですが、第三者名義の銀行口座や、架空会社の銀行口座に受け取ったスカウトバックを預けたり、受け取る際に虚偽の領収証を発行していた場合などは隠匿となってしまうでしょう。
犯罪収益等隠匿の法定刑は「10年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はこれらの併科」と収受に比べると厳しいものになっています。
組織犯罪処罰法で加重対象となる犯罪
組織犯罪処罰法では、犯罪収益に関する規定だけでなく、ある一定の犯罪については、組織的に犯行を行うことによって刑事罰が厳罰化されることが規定されています。
それでは、組織犯罪処罰法で加重対象となっている犯罪と、どれくらい刑罰が重くなるのかについて解説します。
加重される犯罪と、刑罰は以下のとおりです。
①封印等破棄罪
3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金又はこれらの併科
⇒5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
②強制執行妨害目的財産損壊等罪
3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金又はこれらの併科
⇒5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
③強制執行行為妨害等罪
3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金又はこれらの併科
⇒5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
④強制執行関係売却妨害罪
3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金又はこれらの併科
⇒5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科
⑤常習賭博罪
3年以下の拘禁刑
⇒5年以下の拘禁刑
⑥賭博場開張等図利罪
3月以上5年以下の拘禁刑
⇒3月以上7年以下の拘禁刑
⑦殺人罪
死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑
⇒死刑または無期もしくは6年以上の拘禁刑
⑧逮捕及び監禁罪
3か月以上7年以下の拘禁刑
⇒3か月以上10年以下の拘禁刑
⑨強要罪
3年以下の拘禁刑
⇒5年以下の拘禁刑
⑩身代金目的略取等罪
無期または3年以上の拘禁刑
⇒無期または5年以上の拘禁刑
⑪信用毀損及び業務妨害罪
3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
⇒5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
⑫威力業務妨害罪
3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
⇒5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
⑬詐欺罪
10年以下の拘禁刑
⇒1年以上20年以下の拘禁刑
⑭恐喝罪
10年以下の拘禁刑
⇒1年以上20年以下の拘禁刑
⑮建造物等損壊罪
5年以下の拘禁刑
⇒7年以下の拘禁刑

スカウト行為に関しては弁護士に相談を
全国のスカウトの摘発が続いていることからも分かるように、警察はスカウト行為に対して厳しい姿勢を示しています。
警察が、スカウトグループの壊滅、解散を目的に捜査を展開していることは明らかで、逮捕されたスカウトに対する取調べは非常に厳しいようです。
そこで、ご家族等が、スカウト行為で警察に逮捕された際は、一刻も早く、こういった事件に精通した弁護士を選任することが非常に重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部では、職業安定法違反や組織犯罪処罰法で逮捕された方に弁護士を派遣する初回接見サービスを提供しております。
またご自身のスカウト行為が警察沙汰になるのではないかと不安を感じておられる方や、すでに警察の在宅捜査を受けている方については、無料法律相談をお受けすることができます。

フリーダイヤル0120-631-881
までお気軽にお問い合わせください。

大阪府を中心に、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県など近畿地方で、犯罪行為による刑事事件・少年事件の当事者の弁護活動を専門に取り扱う法律事務所です。
刑事事件・少年事件専門の弁護士による専門知識と経験に基づく弁護活動によって、依頼者様のお悩みや不安を、親身になって全力でサポートいたします。
刑事事件・少年事件に関する相談は全て無料です。相談・接見は、土日祝日、夜間でも即日対応可能です。スケジュールの都合が合えば、お電話をいただいてからすぐ相談・接見を行うこともできます。ぜひご相談ください。