先日、窃盗容疑の少女が別人のまま起訴され、その後、公訴が棄却されたという、非常にショッキングで、お粗末な刑事手続きが報道されました。
本日のコラムでは、この事件を検証し、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所大阪支部の刑事弁護人の見解を解説します。
事件内容(4月12日配信の時事通信社の記事等を参考)
少女は、今年2月に、大阪ミナミの飲食店において、現金5万円等が入った財布を盗んだとして緊急逮捕されたようですが、その際、少女は、実在する成人の日本人女性の顔写真入りマイナンバーカードを所持しており、警察官に対して、この日本人女性の氏名を名乗り、生年月日を答えたようです。
そのため警察は、逮捕した少女を、実在する成人の日本人女性のまま捜査を進め、検察庁に事件を送致し、検察官も少女が別人であることに気付かず、結局、別人を窃盗罪で起訴しました。
この事実は、少女の弁護人が初めて気付き、捜査機関に指摘したことから発覚し、最終的には、検察官が裁判所に公訴の棄却を求め、その請求を裁判官が認めました。
それによって少女は、少年法の手続きに従って、検察庁から家庭裁判所に送致されたのです。
犯人の人定確認
刑事手続きにおいて、捜査対象(被疑者・被告人)の名前や、住居等を明らかにするのは当然のことで、一つ間違えれば、全く事件と関係のない人を巻き込むことになるので慎重に行われなければいけません。
しかし今回の事件では、犯罪捜査における基本中の基本が適切に行われていなかったようです。
逮捕した犯人が別人を名乗り、かつそういったこと証明する物を何も持っていなかったのであれば、こういったミスもまだ納得できますが、今回の事件で捜査当局のお粗末さが指摘されているのは、そうではなく、逮捕時に処女が、顔写真が貼付されている身分証(マイナンバーカード)を所持している上に、この身分証には盗難届が出されていたからでしょう。
しかも、どういった身分証か明らかにされていませんが、逮捕された少女は、逮捕時に自分の身分証も所持していたと言います。
窃盗罪で逮捕した犯人が、2人分の身分証を所持していたのであれば、盗難手配がされていないか照会をするでしょうから、すぐに少女が身分を偽っていたことはすぐに発覚したでしょう。
どうして発覚しなかったのか・・・?弁護士の疑問
この事件を聞いた時に「どうして起訴されるまで気付かなかったのか?」という疑問がありました。
警察に逮捕された犯人が、自分の身分を偽ることはよくあることで、当然、警察もそのことを熟知しているでしょうから、犯人の人定確認には万全を期しているはずです。
また警察は犯人を逮捕すると、取調べの中で犯人の生い立ち等を聴取した「身上調書」という供述調書を必ず作成します。
この身上調書は、事件に関する記載がほとんどないので、否認、黙秘している被疑者でも応じる場合がほとんどです。
そして警察は犯人の戸籍を取り寄せるので、身上調書の内容と、取り寄せた戸籍の内容から矛盾点を発見できなかったのかという疑問が残ります。
弁護士の見解
今回の事件は、起訴後に発覚し、裁判所が公訴を棄却したので、起訴されていた少女は本来受けるべき少年法の手続きに則って、家庭裁判所に送致されたようですが、仮に少女の弁護人が別人であることに気付かずに、そのまま裁判が進んでいき判決が確定してしまったら・・・と考えると全く関係のない人に前科が付いてしまう可能性もあったわけで非常に恐ろしいことです。