殺人罪

具体例

ケース

大阪市北区の梅田駅近くに住んでいるAさんは、親が交際に反対していることを理由に交際中のBさんに別れ話を持ちかけました。
しかし、Bさんは応じず、別れるくらいなら二人で心中したいと申し出ました。
Aさんは、最初戸惑ったもののしぶしぶ了承し、二人で毒入りジュースを飲んで心中することにしました。
3日後、AさんとBさんは、阪神梅田駅で購入したミックスジュースと致死量を超える青酸カリを準備し、毒入りジュースを作りました。
その時Aさんは既に自殺する意思を失っていました。
それにもかかわらず、Aさんはあたかも追死するように装い、先にBさんに毒入りジュースを飲ませた結果、Bさんだけが死亡しました。

Aさんには何罪が成立するでしょうか?
(フィクションです)

(問題となる条文)
【殺人罪(刑法199条)】
「人を殺した」場合、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」になります。

【殺人予備罪(刑法201条)】
人を殺す目的で「その予備をした」場合、「2年以下の懲役」になります。もっとも、情状により刑を免除することも可能です。

【自殺幇助罪(刑法202条)】
「人を」「幇助して自殺させた」場合、「6か月以上7年以下の懲役又は禁錮」になります。

(解説)
殺人罪は、人を殺す意思(殺意)を持って人を死に至らしめる行為を罰する規定です。

よって、殺人罪となるためには、殺意の有無がポイントとなります。
殺意の有無は、本人の供述のみならず殺害に用いた凶器の種類やその使い方、動機、犯行後の行動など様々な客観的状況も合わせて総合的に判断されます。

殺人事件の場合、注意しなければならないことは予備罪の規定があるということです。
予備とは、すなわち準備をすることです。
殺人罪は、人の生命を奪うという重大な犯罪なので、人を殺す目的でその準備をした場合も罰するのです。

自殺幇助罪は、他人が自殺するのを手助けした人を罰する規定です。

ここまでの話で今回のケースを見てみますと、心中を申し出たのはBさんであることから、Aさんは毒入りジュースを飲ませることでBさんの自殺を手助けしただけではないかと思われます。

しかし、同様のケースで裁判所は、殺人罪の成立を認めました。
その理由は、AさんとBさんがいざ心中しようとした時点において、すでにAさんは自殺する意思がないにもかかわらず、その意思があるように見せかけてBさんに毒入りジュースを飲ませたからです。

つまり、今回のようなケースでBさんはAさんが追死すると思ったから自殺したと考えられるところ、実際はAさんに騙されていたということからすると、もはやBさんの行為は自殺と認定できないというのです。
むしろ、AさんがBさんの行為を利用して、Bさんを殺害したと結論付けたわけです。

Aさんの殺意については、致死量を超えていることを認識しながら毒入りのジュースを準備しBさんに飲ませていることから存在が認められます。

したがって、Aさんには殺人罪が成立すると言えるでしょう。

殺人事件における弁護活動

1 真犯人がいることの主張

身に覚えがないにもかかわらず、殺人事件の被疑者として捜査対象に挙げられてしまう場合があります。

そんなときは、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出したり、殺人罪として起訴・有罪にするには証拠が十分にそろっているとは言えないことなどを主張したりします。

逮捕など身体拘束されている状態でこうした活動をすることは不可能ですし、そうでなくとも一般の方が行うにはかなりの困難が伴います。
そのため、一般的には弁護士を通じてこれらの弁護活動を行うことになります。

2 殺意がないことの主張

殺人罪が成立するには、殺意がなければなりません。
そこで、殺人事件では殺意の有無が裁判の大きなポイントになります。

殺意の有無は、死因となった傷の部位、傷の程度、凶器の種類・使用方法、動機の有無、犯行後の行動など様々な客観的状況を総合的に考慮して判断されます。

そこで、弁護士はこれらの事情を詳細に検討し、殺意の存在と矛盾する点があれば、その点を強く訴えていきます。

3 因果関係がないことの主張

犯罪が成立するには、加害者の行為と被害結果との間に因果関係がなければなりません。
殺人罪でも同じです。

そこで、殺人事件の弁護では、本当に被告人の行為によって被害者が死亡したのか疑わしい場合、その点を徹底的に追及します。
因果関係が否定されれば、無罪判決・不起訴処分を勝ち取ることができる可能性があります。

4 正当防衛・緊急避難の主張

殺人事件でも、事情を詳細にみると自己または家族など大切な人への攻撃に対する反撃としてなされた場合、あるいは自己または家族などを守るためやむを得ず第三者を傷つけてしまった場合があります。

こんな場合は、殺害行為が正当防衛・緊急避難行為に当たるとして正当化される可能性があります。

したがって、弁護士としては様々な客観的状況や目撃証言を収集し、加害者の行為が事件当時やむを得ない行為であったとして正当性を主張していきます。

5 情状弁護

殺人事件を起こしてしまったことについて全く争いがない場合でも、犯行に至った経緯や動機、犯行後の状況などに鑑みて、刑を軽くしてもらうように弁護活動を進めていくことが可能です。
これを情状弁護と言います。

弁護士は、犯行前後の経緯や状況を綿密に調べ、例えば介護疲れ・心中崩れなどの事情があれば、それを強く訴え減刑又は執行猶予付きの判決を目指します。

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